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「セルフ志向」と「対面志向」

フィットネス業界の未熟な成長戦略

2004/10/03

最近、電車で数駅はなれたフィットネスクラブの会員になった。通勤定期が使えて自宅に一番近いという規準で選ぶと、その駅しかないのだが、フィットネスクラブは駅前に2軒ある。そのうち駅から遠いほうを選んだのは、平日・休祝日の夜間だけ利用できる会員種類があったからだ。平日の昼間など通えないので、その時間帯の料金を払うのは意味がない。夜間だけ利用できる会員種類にすれば、終日利用できる会員種類と比べて、毎月3,000円近く安くなるのだから、夜間のみを選択しない手はない。

自分の健康のためにどれくらいの金額を投資する気があるかは、人によって違うと思うが、僕にとっては毎月7,000円弱という金額でも、かなり奮発した方だ。ただ、毎月たった7,000円で、決められた夜間の時間帯だけであっても、トレーニング器具や、スイミングプール、ジャグジーバスなどが使い放題なのだから、そう考えるとかなりお得な感じはある。

最近は仕事上でフィットネスクラブにかかわっているということもあるので、入会手続きのときからスタッフの応対も含めて、注意して様子を見ていた。ほとんどのフィットネスクラブはヘンな人たちが利用しないように、「会員制」を取っていて、会費の引き落としのために、入会時にクレジットカードを申し込む必要がある。

「ヘンな人たち」というのは、例えば、フィットネスクラブに限らず、一般の公衆浴場でも入浴を断られるような、タトゥーのある人たちも含まれる。最近じゃタトゥーがあるからといって、必ずしも「その筋」の人々とは言えず、安室などR&B系の黒人文化に洗脳された人たちも、ファッションと称して体に傷をつけているわけだが(体を傷つけることで自分が自分であることを確認するという意味で、彼らはリストカットで自殺未遂を繰り返す人たちと同じ仲間にくくれる)、残念ながらそういった人たちもフィットネスクラブは入会お断りということになる。

その他の「ヘンな人たち」とは、クレジットカード作成時の審査に引っかかるような人たちのことだ。クレジットカードを作れるほどの経済力さえない人、過去にクレジットカードの返済を滞らせてブラックリストに載っている人など、そういった人たちはクレジットカードが作れず、会費の自動引き落としができないので、自動的にフィットネスクラブに入会できない。

このようにフィットネスクラブに入会するとき、クレジットカードを作らなければいけないという事実は、実は入会希望者をふるいにかけるという重要な意味を持っている。見ず知らずの人たちが集まって運動する場で、最低限の安全を確保するには、こうした「ふるい」はとても大切なことなのだ。

さて、IT業界の関係者として注目したいのは、フィットネスクラブでITがどのように活用されているかという点だ。第三次産業でIT化がもっとも進んでいるのは、たぶん流通業だが、それと比べて接客商売のIT化は端的に遅れている。

フィットネスクラブの入会時にきづくIT活用は、会員証発行のときぐらいだろう。入会すると自動で会員番号が発行されるが、その番号はおそらく会員管理システムで自動的に採番されたものだ。僕の入会したクラブの場合、会員番号は全部で12ケタ。最初の4ケタは、たぶん店舗を示す番号で、次の3ケタが会員種類、残りの5ケタが通し番号になっていると思われる。

この会員番号を見るだけでも、そのクラブを経営している企業のIT化がどれくらい合理的な構想にもとづいているかがわかる。このクラブはかなり将来まで見通した採番体系を持っていると言ってもいいだろう。というのは、店舗番号が4ケタあれば、地域番号2ケタ、地域内の店舗番号2ケタという感じで、地域ごとの店舗展開を意識した採番体系がとれる。地域番号が2ケタあれば、かなりきめ細かいエリアマーケティングができ、エリアごとの収益分析などもやりやすいだろう。

また、どこのフィットネスクラブも法人会員といって、一般企業の福利厚生の一環としてクラブを利用してもらうように、法人と利用契約を結んでいる。法人と利用契約をすると、その法人で働く社員が自由にクラブを利用できるようになるが、これらの法人会員と、個人で契約している個人会員は、会員管理上、当然別々に管理しなければならない。

そもそも個人会員と法人会員とでは、利用料の請求方法が異なってくる。個人会員が個人に対して利用料を請求するのに対し、法人会員はその法人に所属する社員の利用頻度に応じた利用料を法人に対してまとめて請求する。

法人会員の場合は、法人が全国各地に拠点を持っていることが多いため、地域別という考えはあまり意味をなさない。また、個人会員が特定の店舗に所属するのに対して、法人会員の場合はどの店舗でも自由に利用できるようにするのがふつうだ。したがって、店舗番号の4ケタと、会員種類番号の3ケタを合わせて、7ケタを法人の識別に利用できる。頭1ケタを「法人会員である」という識別に使うとしても、残りの6ケタで最大1,000,000法人を顧客として登録できることになる。そしてそれぞれの法人について、残りの5ケタを使って、最大100,000人の社員を会員として一人ひとり識別できる。単体で10万人の社員を有する企業はおそらく存在しないと思われるので、非常に余裕をもった、将来の事業拡大を見据えた合理的な採番体系だといえる。

個人会員に話をもどすと、店舗番号4ケタに続き、会員種類が3ケタあれば、店舗ごとに最大1,000種類の会員種類を設定できることになる。そして残りの連番5ケタで、それぞれの会員種類ごとに最大100,000人を登録できるということだ。フィットネスクラブは、都内で最大級と言われる施設でも、アクティブな会員数が10,000人を超えることはまずないので、5ケタあれば最初の1ケタをさらに識別のためのケタに使うことができる。たとえば性別の識別に使うのも一つの手だ。

会員管理システムというのは、フィットネスクラブにとって最重要の基幹システムであり、会員番号はその中でも最重要の主キーになる。会員番号がどれだけよく考えて作られているかを見れば、そのクラブの情報システムがどれだけよく設計されているかがわかる。僕の入会したクラブは、現状はどうあれ、長い将来を見据えた会員番号の体系になっているという意味で、よく考えて設計された会員管理システムだと推測できる。

たとえば他のフィットネスクラブでは、店舗番号が2ケタ、個人を識別する部分が6ケタで、会員番号が合計8ケタしかないところもある。これでは100店舗を越す店舗展開は、最初から考えていませんと言っているのと同じことだし、法人会員の管理についてもまったく考慮していませんと宣言しているようなものだ。会員管理システム上、もっとも重要な主キーが、こんなに余裕のない採番体系になっているというのは、情報システム投資に必要以上に金をケチって、将来への見通しがない企業ではないかと思われても仕方ない。

さて、他に入会時に気づくことといえば、会員証の印刷だ。会員証には自分の顔写真が印刷される。その顔写真は入会時にその場で撮影してもらうのだが、僕の入会したクラブの場合、パソコンにUSB接続されたいわゆるテレビ電話用のUSBカメラが使われていた。たぶん10,000円もしない、安いCMOS素子のカメラだ。顔写真など本人が識別できればいいのであって、わざわざ高いデジタルカメラで撮影する必要などまったくない。このあたりにも、このクラブの経済合理性がうかがえる。

会員証プリンタはプラスチック筐体のかなり安っぽいもので、磁気テープも何もないプラスチックカードに、ただ顔写真と会員番号、会員種類を印刷するだけのものだ。このクラブの場合、来店したときのチェックインは、スタッフに会員証を預けて、チェックアウトは預けた会員証を返してもらうという形式で行われている。そのため会員証は、本当に磁気テープもICチップ何もない、単なるプラスチックカードで済むし、会員証プリンタも磁気テープへの書き込み機能がない安価なもので運用できる。

ただ、このようなチェックイン形式の場合、会員ごとの来場履歴を記録して、後で分析するということができなくなってしまう。他のフィットネスクラブでは磁気テープに会員番号を書き込む形式の会員証を発行し、来店時にはその会員証を自分でカードリーダに通してチェックインするという「セルフ・チェックイン」形式をとっているところもある。

IT化という意味ではセルフ・チェックイン形式の方がはるかに合理的で、会員の動向分析という意味でもデータ活用の可能性が大きい。会員証発行プリンタに磁気テープへの書き込み機能が必要になり、会員証発行にかかる費用は割高になるが、蓄積された来場データを社内でちゃんと生かしていれば、それもムダな投資にはならないだろう。

また、セルフ・チェックインには、店舗の人件費を削減できるというもう一つの大きな利点がある。僕が入会したクラブはセルフ・チェックインではないので、来場するとチェックインカウンターにどうしても、数人の列ができる。その列を短時間でさばくためには、それだけの人数のスタッフをフロントに配置しなければならない。必然的に店舗運用にかかる人件費がふくらむ。

ちなみにチェックインは会員証を預けるのと引き換えに、ロッカー用のカードキーをもらうという手続きになっている。そのカードキーをもってロッカールームに入り、着替えを済ませてから、カードキーをロッカーの錠前部分に差し込むと、リストバンド式の鍵が施錠できるような仕組みになっている。施錠したらカードキーが抜けなくなり、リストバンド式の鍵が抜けるので、そのリストバンド式の鍵を手首につけて、運動することになる。

運動が終わったらリストバンド式の鍵でロッカーを開けて、着替えを済ませ、カードキーを取り出してフロントへ戻り、カードキーと引き換えに会員証を返してもらう。会員証を返してもらうとき、フロントのスタッフがいったいどうやって僕の会員証を探し出すのだろうと思っていると、なんとフロントカウンターの内側に、会員証を立てた状態でずらりと並べられるようになっていて、カードキーに印刷されている番号を手がかりに、数秒で僕の会員証を素早く返してくれた。

セルフでないチェックイン、チェックアウトの体制にすると、それだけでもかなり店舗のスタッフに負荷がかかることがわかる。フィットネスクラブのフロントにいる店舗スタッフは、他にも入会希望者の入会手続きや、会員さんからの各種問い合わせへの対応、店舗見学希望者への対応など、さまざまな仕事があるので、やはりチェックイン/チェックアウトはセルフ化するのが望ましい。

ただ、セルフ化にも欠点はある。チェックイン、チェックアウトをセルフ化すると、入館時のチェックがほぼ不可能になるという点だ。たとえば僕は夜間のみ利用できる会員種類で入会したが、もしセルフ・チェックインであれば、少し早めに入館してもまず気づかれることはないだろう。セルフ化のためにIT化投資をするのは、店舗の人件費削減が前提になるので、当然、セルフ化以前に比べて店舗スタッフの人数は減る。いままでフロントに常時立っていられたスタッフも、店舗内の見回りなど、他の仕事に駆り出されることになる。いままでフロントを3名で対応していたのが2名になれば、1名が入会手続きをやって、他の1名が顧客対応をしているだけで、フロントは無人になる。

チェックイン、チェックアウト時のチェックがおろそかになることによる、機会損失を含めたとしても、おそらくセルフ化の費用対効果はあると考えられる。しかし本当に費用対効果を出そうと思うなら、自動チェックイン/チェックアウトをすることで、日々集まってくる、会員の来場履歴をきめ細かく分析し、今後の営業企画に生かす必要がある。それもやらずに、単に人件費削減のためだけのセルフ化に終わっている場合は、単なる後ろ向きの合理化としか言えないのではないか。

ただ、僕が入会したクラブの名誉のために付け加えておくと、このクラブはセルフ化しないことを企業戦略としているようなのだ。それは店舗の中に入ってみると分かる。フロントスタッフの数が多いだけでなく、トレーニングエリアの中のスタッフも数が多い。僕がいちばん驚いたのは、入会後、初めて来館したときのオリエンテーションで、スタッフが一人、30分間付きっ切りで正しい筋力アップトレーニングのやり方、無理のない体力づくりの仕方について説明してくれたという点だ。

一人の顧客のために、追加料金を取らずに、指導能力のあるスタッフが30分間も張り付くというのは、人件費の観点だけからすると大変なムダであるように思える。しかもそのとき、オリエンテーションを受けているのは僕一人だったので、おそらく気まずい思いをしないようにとの配慮から、女性スタッフが一人、僕の横で同じ初心者のような感じで、その話を聞いてくれていた。その女性スタッフは、今後自分も同じ説明ができるように、研修のかわりに聞いていたのだろうが、それにしてもこの30分間約1.5人分の人件費がかかっている。

また、トレーニングエリアは、かなりにぎやかだ。何がにぎやかと言って、スタッフが定期的に大きな声で繰り返す「お疲れさまでしたー」という声である。最初のオリエンテーションしかり、この居酒屋のような掛け声しかり、僕は個人的にはあまり好きではない。むしろ必要なときは呼んで聞くから、静かに運動させてもらいたいという方なのだが、店舗内を見回すと若い顧客が多く、なんとなく活気がある。そしてその活気を明らかに楽しんでいるタイプの顧客が多い。

このクラブがチェックイン/チェックアウトをセルフ化せず、店舗の人件費を切り詰めていないのは、実はこうした店舗の雰囲気づくりと一貫した考え方にもとづいているのだ。このクラブは明らかに、会員の回転数よりも、会員の長期定着による収入の安定化を志向している。

フィットネスクラブのような会員制のサービス業は、非会員制のサービス業と比べて、新しい会員一人を獲得するために必要な広告宣伝費が高いと言われている。一般の消費者にとって、「入会」という手続きがある分だけ会員制の方が敷居が高くなるからだ。そうすると、新しい会員をどんどん入れて、退会する人の後は追わないというやり方よりも、いったん入会した人をがっちりつなぎとめて、退会者を出さないという方が、会員一人当たりに必要な「生涯費用」を削減できる。

ただ、フィットネスクラブのような新興産業が、このような会員一人当たりの「生涯費用」をどこまで社内できっちり管理できているかは疑問だ。計算は簡単である。一定期間に投入した広告宣伝費を、同じ期間に獲得できた新規入会者数で割れば、会員一人あたりにかかる広告宣伝費は求められる。このとき、既存の会員数を含む総会員数で割ってはいけない。広告宣伝費は新規入会者の獲得のためだけであって、既存の会員の大会を防ぐ効果はないと考えるのが、経営管理上は保守的で健全な考え方だ。

逆にセルフ化を進めることで、人件費をふくむ店舗の運営費用を削減する志向のフィットネスクラブの場合は、一定割合の退会者は容認せざるをえなくなる。セルフ化を進めるクラブが店舗のスタッフを減らせば、僕の入会したようなクラブと比較したとき、退会率が高まるのは当然のことだ。その分、一定の新規入会者を確保するために、広告宣伝費や会費のディスカウントなど、別のところで費用をかける必要が出てくる。

このように見てくると、フィットネスクラブの運営には、二つの相反する方向性があることが分かる。セルフ化を進め、一定の退会率を容認して、新規入会を確保するために広告宣伝費と会費のディスカウントを行う方向性と、サービスの充実を進めることで退会者数を減らし、新規入会に頼らず、会費も一定水準を確保する方向性の二つである。ここでは仮に前者を「セルフ志向」、後者を「対面志向」と名づけておく。

この二つの方向性は、そのフィットネスクラブを運営する企業の規模によって、持つ意味がまったく変わってくる。数店舗しか運営していないような、地元密着型の小規模なクラブが、その規模を維持し続け、店舗数を増やす志向を持たない場合は、「対面志向」が最適な経営戦略になる。反対に店舗数が数十あり、今後も拡大を目指すクラブの場合は、「セルフ志向」が最適になる。

小規模だから「対面志向」、拡大を目指すから「セルフ志向」という単純な因果関係ではなく、クラブの規模と二つの志向は循環する関係になっている。一度「対面志向」をとると、店舗ごとの運営費用が増大する傾向になるので、店舗が増えると、ほぼ正比例して費用も増大するので、規模の拡大がやりにくくなる。「セルフ志向」をとると、店舗数を増やせば増やすほど、店舗運営の費用を本部に集中することで、一店舗あたりの運営費用を削減できるので、規模の拡大がやりやすくなる。このように、企業規模と二つの志向は、お互いに強化しあう循環の関係になっているのだ。

たとえば僕が入会した「対面志向」のこのクラブは、首都圏のみ13店舗で、フィットネスクラブの業界では中堅クラスといえる。現状のような「対面志向」を続ける限り、このクラブは大きく店舗数を伸ばすことは難しいだろうし、首都圏以外への全国展開はまず不可能と思われる。一方、さきほど「セルフ志向」の例としてあげた別のクラブは、近畿圏10店舗、首都圏12店舗で、すでに複数地域にまたがった店舗展開をおこなっている。

このクラブは、昔、近畿圏のみ、首都圏のみの店舗展開を行っていた2つのクラブが合併してできたらしいが、その当時はどちらかと言えば、僕が入会したクラブと同じような「対面志向」だったらしい。しかし合併によって「対面志向」から「セルフ志向」へ大きく企業戦略を転換した。これはきわめて正しい経営判断だったと言える。そして今後も店舗数を増やしていくのであれば、「セルフ志向」を追求することで店舗運営コストのできるだけ大きな部分を共通費化し、効率化を進める必要がある。

仮にこのクラブが、いまだに「対面志向」への未練をひきずっているとすれば、それは自殺行為以外の何ものでもない。たしかにフィットネスクラブという場所そのものを愛している人たちにとって、「セルフ志向」というのは、クラブの活気を多少なりとも失わせるし、顧客との密接な関係も少なからずなくなってしまうので、モチベーションを下げる要因になるだろう。

退会者についても「去るものは追わず」の姿勢で、逆に広告宣伝費を投入することで新規会員の方に注力する必要が出てくる。クラブを運営する立場の人々は、フィットネスクラブを、ある種「集客マシーン」として機械的に、突き放した視点で考える必要が出てくる。「セルフ志向」への転換によって、失われるものは当然あるし、それを捨てなければ店舗運営の効率化など出来るわけがない。

考えられる最悪のシナリオは、「セルフ志向」へ大きく舵をきったつもりが、社内の人員がいまだに「対面志向」の哲学に洗脳されていて、反対方向の意思決定に流れてしまう場合だろう。例えば「セルフ志向」である限り、一定の退会率は容認すべきなのに、退会率を抑えるための施策に投資する、対面サービスの低下も容認すべきなのに、それを充実させるために再び少しずつ店舗スタッフを増員する、本部へと共通化された業務効率化を優先させるべきなのに、逆に本部が店舗の個別の要望に合わせるように仕向けることで、共通化された業務をまた分散化する、などなど。

このシナリオが進行すると、「セルフ志向」によって減るはずの費用が減らず、増えないはずの費用が増えるという結果になり、退会率の低下と新規入会者の増加を同時に実現できたとしても、気が付いたら、非常な高コスト体質の店舗運営になっていた、ということになる。こうなると店舗数が増えるにしたがって、個々の店舗内の運営費用(とくに人件費)も、本部の共通費部分も、ともに増加することになり、企業規模を拡大することによるメリットが何もなくなってしまう。

フィットネスクラブ業界の企業が、この最悪のシナリオを避けるために何をすればいいかは、きわめて単純である。それは、企業として大きくなるためには、必ず何かをいったんは捨てなければならないということだ。何かをいったん捨てないことには、企業としての資本蓄積が進まない。逆に思い切って捨てることで店舗数を拡大し、資本を蓄積すれば、そのときに一店舗あたりにすれば少ない費用で、顧客満足に大きく貢献できるような投資が可能になる。たぶんそこにはITを活用する余地が大いにある。

たとえばコンビニエンス・ストアが、最近、店舗ごとに品揃えを違える「個店化」志向を強めているのは、これまで十分に業務を共通化・効率化してきたことによる蓄積があるからであって、それさえ出来ていないフィットネス業界が、いきなり「個店化」を目指しても、単に「対面志向」の高コスト体質へ逆戻りする結果に終わるだけなのだ。

フィットネスクラブ業界は業界そのものが未熟なせいか、専業でやっている企業は、例えばコナミのように兼業でやっている企業に比べると、このあたりの成長戦略が極めて未熟でどっちつかずだ。そのために目先の1円をケチって、将来の10円を失うという間違いを犯している場合が多いように思う。その他にも、成長戦略が未熟な原因はいくつかありそうなので、また後日書いてみたい。



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